正しい技術

ハンマーのワイヤーの先には7.26キロの砲丸がついている。
これをオリンピックで活躍する選手達は80メートル位投げるわけだが、これは男子の公式ハンマーの重さ。
女子は4.0キロ、他にも始めたばかりの人やジュニアの練習用に軽い砲丸が用意されている。
また重い砲丸がついた練習用のハンマーもある。


さて、室伏選手は重さの違う砲丸のほとんどを練習の中で投げている。
それぞれの飛距離は、当然軽ければ遠くに投げられるし、重ければそこまで投げられない。
その記録をグラフに表すときれいに比例したグラフを示すという。


しかし、それはオリンピックで活躍するような選手だからできることであって、誰もが同じような結果にはならないそうだ。
たとえ公式ハンマーより軽い砲丸を投げたとしても、遠くに投げることができない選手や、重さに比例して距離が伸びない選手がいるらしい。


この原因はテクニックだ。
確かな技術が身についていない選手は、普段投げているハンマーと重さが違うことに対応できず、正しいフォーム、正しいタイミングで投げることができないのだ。


そういう選手がパワートレーニングに励んでも、公式ハンマーの記録もなかなか伸びない。
まずはじめに確かな技術を身につけなければならないのだ。


その確かな技術を身につけるためには、2つ必要なことがある。

  • 正しいフォーム
  • ハンマーを制する体力


正しいフォームは教科書や教則ビデオ、または指導者に直接指導してもらえば分かるだろう、と思われるかもしれないが、正しいフォームを理解することと、イメージどおりのフォームでハンマーを投げることは大変難しいのだ。


正しいフォームを理解することと、イメージどおり体を動かすことの両方が必要なのだが、そのためには「カラで回る」ことが有効だ、と室伏選手は言っていた。


カラで回る。というのはハンマーを持たずに投げる動作をすることだ。
しかし、普段やっていることを「カラ」でやるというのは簡単そうで、難しい。


例えば、くつひもを結ぶ動作を空中でやってみよう。
さて、迷うことなくスムーズにできましたか?


そう、くつひもを結ぶ動作を空中でするとき「あーして、こーして」と、いろいろと考えてしまった人はくつひもを結ぶ動作を特に意識せず、無意識のうちにいつもやっている人なのだ。


まぁ、くつひもを結ぶ動作程度なら、特に意識してするほどのことでもないが、アスリートが練習する上で自分のカラダの動きを意識していないと、正しいフォームが身につくことなく、逆に悪い癖が身につくことになってしまう。


+αのこととして(この内容は室伏選手の講演には出てこなかった)、「カラ」で練習するときは実際のスピードとは違うスピードですると、より正しい動作の理解につながる(格闘技の世界ではよくやることだ)。また、「カラ」で練習するということは、身体にかかる負担がカラでないときより軽いため、本番前やケガをしているときの練習に有効だ。


そして、ハンマーを制する体力。


ハンマー投げでは、遠くに投げるためにハンマーに対して運動力を加え続けなければならないため、ハンマーの運動方向とは逆の方向にカラダを動かすことになる。それがスウィングでありターンであり、運動力が最大のとき=回転する砲丸が一番低い位置に来たときに逆方向にカラダを動かし、力=床反力を加えるのだ。


それなのにハンマーの運動力に耐え切れず、ハンマーの運動方向に流されてしまっては、せっかくの運動力を消してしまうことになる。


公式のものより重いハンマーを投げたとき、極端に記録が落ちてしまう選手はハンマーを制し切れていないのが原因である。


ハンマーを制するために必要なことは、筋力だ。
ハンマーに振り回されることなく、運動力を加え続けるためには筋力が必要なのは言うまでもないことだ。


このことを室伏選手はこういっていた。
「ハンマーから独立した動きをするということです。ハンマーに影響されることなく正しいフォームで回れたら、自然にハンマーはついてきて正しく投げることができるのです。」
さらに
「腕、脚、背骨といった身体の一つ一つも独立した動きができることも必要です。それぞれの部分が他の部分に影響されて特定の動きしかできないというのは、悪い癖やフォームの原因となります。身体の一つ一つの部分が正しいタイミングで正しく動くことが大切なのです。」
これは、〜室伏選手が背骨の一つ一つを意識的に動かすことができるというのは本当か?また動かせることの意味は何か?〜という質問に対する答えだったのだが、普通アスリートとは専門の種目に特化していて、ボールがくれば身体が反応する、技をかけられれば身体が自然によけてカウンターをする、と一つ一つのプレーが身体にプログラムされているようなイメージがあったが、身体の部分一つ一つを意識的に動かしているというのには驚いた。
確かに、勝ち負けではなく記録を競う競技という違いはあるだろうが、こういう選手はそういないだろう。


身体が「Flexible」に動くということが大切だということだろうか。


こんな内容もあった。
「山に行って丸太を担ぐというトレーニングをしたのは、身体がトレーニングに慣れてしまうことを防ぐためです。ジムにあるようなトレーニング機器は、重さが分かって左右のバランスも一緒で、一定の動きしかしません。そのため予測ができてしまい、慣れが生じるのです。しかし、丸太のように一つ一つの重さが異なり、比重も異なるものは、見た目だけではどう持てばよいのか分からないため、身体が慣れることがないのです。」


これが一流。
全てにおいて意識をし、何が必要なのか見極める力を持っている。
そういうオーラに溢れていた。


To Be Continued

  • 音によって狂い始める。