S.S.S. Jewelry Limited Partnership

これがタイ政府公認、個人貿易用の宝石ショップだ。ここからの話は、すべて街中や仏教寺院で会ったタイ人に聞いた話なので本当の話かどうかは分からない。
どうやら、ここで宝石を買うとかなり安いらしい。というのも、東南アジアで取れた宝石のほとんどがバンコクを経由して世界に輸出されるからだ。バンコクにはそういう宝石の卸売りの店がたくさんあり、この店もそのひとつ。場所によって値段がばらばらで、外国人観光客の集中している地区ほど値段が高くなるそうだ。以下は「幸福の仏」があるといわれる仏教寺院で会ったタイ人に聞いた話である。
「タイ人の40%は個人宝石貿易をしている。私も1年に1度だけ海外旅行と称して金儲けに行くのさ。教えてやろう、S.S.S. Export(実際は上記の名前)という名前の宝石ショップだ。ここは東南アジアの宝石の卸売り店なのさ。だからアメリカや日本、ヨーロッパ、オーストラリアでの店頭販売価格の半額以下なのさ。俺が個人貿易をするときは1回につき3個までだ。なぜなら関税がかかるのと、俺が宝石貿易のライセンスを持っていないからだ。店で宝石を買うときは、これは母に、これは姉に、これは妻に、といってクレジットカードで宝石を買う。そして飛行機のチケットを買って、例えば東京に行くのさ。空港の税関が、この宝石は何だ、と聞いてくる。そのときも友達へのプレゼントと言う。その後、スーツを着て、きれいな格好で日本の宝石店に行って宝石を売る。1回行けば少なくても10,000 US$以上は儲けられるから、旅費は大した額じゃない。タイ人の中で本当に貧乏な人と、本当の金持ち以外はみんなやっていることさ。しなきゃ馬鹿だよ。」
なるほど。そういうものか。
この後、実際にこの店に行ってみた。いかにもバックパッカーという格好で行ったのだが、この店のタイ人の店員は、一応フォーマルな格好をしていたけど、ダサかった。スーツのデザイン、シャツ、靴。靴下やストッキングを履いていないことも不自然。さらには、日本で買うと3倍はしますよ・・・、3個までなら関税がかかりませんよ・・・、とご丁寧なことに個人貿易を匂わせるようなことまで教えてくれるのだった。


ここで話は飛躍して、先進国、途上国論になる。
日本人がこの話を知って、タイ旅行と称して金儲けのために個人宝石輸入をする人が40%にも登るだろうか?40%は大げさとしても、1%=120万人の日本人がすることも考えにくい。今でも拝金主義の人はいるだろうが、たいていの日本人は金儲けよりも、人生の充実や生きがいを求めている傾向にあると思う。
高度成長期のころの日本はエコノミックアニマルと称され、モノと金がすべての価値観だった。しかし、多くの日本企業がモノ作りにこだわりを持ち、モノに対して全精力を注ぎ込んだ、その時代があったからこそ、今の、豊かな価値観を持つ日本があることは間違いないし、今でも、そのころのモノ作りの精神は受け継がれている。それゆえに、エコノミックアニマルを抜け出し、この豊かな価値観を得たとき、本当の先進国と言われるのではないかと思う。
津波災害があった時、被災国に対して支援金が寄せられた。だが、インド、タイ、インドネシアはその支援を拒否、もしくは保留していた。インドは国連常任理事国入りを視野に入れて、インドネシアは宗教的理由でイスラエルからの援助を拒否、タイもASEANでの主導的役割を意識しての無償資金援助を辞退したわけだが、これが先進国へと歩む道とはとても思えない。
先進国を目指すなら、まずは国内である。豊かな価値観を持つ国民と電気、水道、下水、ガスなどの基盤整備。そして、基本的な人権の浸透が第一だ。古くから伝わる伝統的な身分制度や差別は簡単にはなくならないだろう。しかし、蔑まれる人たちの生活改善やインフラ整備は、今後成長が著しく、先進国を目指すであろう、インド、中国、タイ、インドネシアの政府が積極的に取り組まなければならない部分であり、また、日本をはじめとする先進国が積極的に指導、支援しなければならないことである。
しかし、現地で実感した感想を言えば、まだまだ先の話になりそうだ。