手段のはずのものが目的になってしまっている

日経スペシャル ガイアの夜明け : テレビ東京
結構な数の大学生が見たであろう11月29日放送のガイアの夜明け

日本の開業率は3%台、15%台に迫るアメリカに比べるとかなり低い数字だ。

とあるけど、日本とアメリカの起業はかなり質の異なったものではないだろうか、と思う。


アメリカでの起業といえば、シリコンバレーという言葉がまず第一に思い浮かぶ。
情報テクノロジーやバイオテクノロジーの最先端を行く研究者やエンジニアが独自の研究や技術を持っていて、それをビジネスチャンスと見たベンチャーキャピタルが出資し、また経営アドバイスや特許戦略の専門家として携わることで利益を上げる、というモデル。
その基本にあるのは、オリジナルの研究や技術をビジネスにつなげることで社会に貢献すると同時に利益を出すという、極めてシンプルなロジックだ。
起業はそのロジック中の一つの手段に過ぎない。


二人の医学生のサクセスストーリー(上)
二人の医学生のサクセスストーリー(下)
天才プログラマーの身体
魔法使いへの道


一方、今回の番組で取り上げられていたのは「まずはじめに起業ありき」の、ビジネスプランだけで勝負するモデルで、「(やる気があるなら)明日からやれ!今日からやれ!口だけのやつは必要ない、行動力のあるやつ出て来い!」というものだった。
起業が手段ではなく主要な目的となっている。


番組の中でも

起業するは良いが、そのうちの30%が廃業に追い込まれている。廃業率が開業率を上回る産業の新陳代謝の悪さが、日本経済の競争力低下の一因とも言われている。

としっかり問題点を指摘している。
「雇われない生き方」「仕事の充実感」「夢を追う」
口当たりの良い言葉に魅かれて、かっこいいスタイルにあこがれて起業するだけなら・・・ ということか。

所詮個人的な思いつきを他人に強要しているだけでは、他人の心を打つ事は出来ねえ。そこには善意でも悪意でもいい、何かしら確固たる信念の様な物が無い限り、天才とか英雄と呼ばれる存在には成れねえ。
攻殻機動隊/S.A.C. 2nd GIG 第22話「無人街 REVERSAL PROCESS」)

番組の中ですこしだけ出てきたネクシィーズの近藤太香巳社長はかなりアツい信念を持っている人だと感じた。(就活で説明会とか行って実際に話を聞いたことがあるというのもありますが)
「便利なモノを分かりやすく世の中に広めることに貢献したい」という基本的コンセプトのもとに行われているネクシィーズのテレマーケティング事業。
「約20年間体験してきたことを今度は後輩達に教えてあげたい」という、かばん持ちに参加している学生に対する言葉。
その経歴をみると、決して何か特別な知識や技術を持っていたわけではないことが分かる。その人間的魅力だけで周りを引っ張ってきた人なのだ。
そしてソフトバンクグループをはじめ多くの先人達にアドバイスをもらい助けられてここまでやってこれた、それと同じことを次の世代に伝えたいという思いが番組中のコメントに表れている。
ホリエモンの人を馬鹿にしたような言動とは一線を画するものがあるな。
常に笑顔で周囲にビジネスモデルや理念を語る近藤太香巳社長と、いつも仏頂面で「想定内」と真意を語らないホリエモンは対照的だ。


(ネクシィーズにエントリーはしたが業務内容を研究したとき、ネクシィーズではどこででも応用が利くプロフェッショナルとしての専門性を身につけることができないと感じたため途中で止めてしまった。)


そして貿易に関するサポート『株式会社Gトレーディング』の倉林啓士郎社長。
sfida(スフィーダ)公式サイト|フットサル・サッカーブランド
http://blog.g-trading.jp/

発展途上国の生産品を正当な値段で貿易し、その国の人々の暮らしをよくするという「フェアトレード」に取り組んでいる。

利益の追求だけでなくCSRにも目を向けて起業しているところに、社会に貢献したいという信念を感じることができる。
HPにも掲げてある。

力と愛は相反するもののようであるが、実は二つが一つになったときにはじめて、その意義が活かされる。
力なき愛は無力で非現実的であり、愛なき力らはただ暴力的である。
私達は経営において力(利益)と愛(理念)の両輪のバランスを常に意識して進んでいくことを大事にしています。

見事だ。


日本でもやり方しだいで日本経済の莫大な推進力となりうるベンチャーが生まれるはずだ。それは大学発ベンチャーである可能性が高い。
「民営化時代のタックスイーター」とか「産学連携に費やされる無駄な税金」と呼ばれる大学発ベンチャーだが、その原因は優秀な経営アドバイザーがいないから。豊富な研究者と研究をビジネスに活かすためには資金と技術の両方の運用が正常に行われることが必要だ。
夜明け前: 「虚妄の大学発ベンチャー」報道、ようやく
優秀な研究者がいて、国からの資金を正常に運用しマーケティングとプロモーションに抜かりない経営のプロがいてはじめて、大学発ベンチャーが日本経済の大きな推進力となるだろう。