坂の上の雲・二部完

2部が終わりました。
日露戦争が始まるまであと一歩のところまできました。
全集で読んでいるから、全集の第24巻を読み終えたことになります。


物語は帝国主義の時代に、日本がどのような外交をしどのような変遷をたどったかが描かれているわけですが、あいだあいだに正岡子規の国文学革命ありさまも描かれています。

「旧派の歌よみは、歌とは国歌であるけん、固有の大和言葉でなければいけんという。グンカンということばを歌よみは歌をよむときにはわざわざいくさぶねという。いかにも不自然で歌以外には使い物にならぬ。淳サンが水兵に号令をかけるときにいくさぶねのふないたをはききよめよというか」
「軍艦の甲板を掃除せよということか」
「水兵が笑うじゃろ。笑うのは、結局生きた日本語でないからじゃ」
外国語も用いよ、という。

「つまりは、運用じゃ。英国の軍艦を買い、ドイツの大砲を買おうとも、その運用が日本人の手でおこなわれ、その運用によって勝てば、その勝利はぜんぶ日本のものじゃ」

カタカナ語の氾濫も、最近のビジネスシーンでのアルファベットの略語や英語のカタカナ表記も、運用と考えてしまえば納得のいくことかもしれない。
しかし、モノやシステム、ことばの運用は子規がいうように生きていなければならない。


ケーススタディーをご紹介しよう。あるサービスのローンチにあわせて、・・・」
これはビジネス : 日経電子版の中の文章の抜粋であるが、
「事例研究をご紹介しよう。ある用役の開始にあわせて、・・・」
という意味だ。
ここで出てくる3つのカタカナ語ケーススタディ」、「サービス」、「ローンチ」ということばがどの程度生きているのかにはかなりの差があると思う。
「サービス」に関しては文句はないだろう。このことばを使うにあたって前置きが必要かと聞かれれば、ほぼ全員が要らないと答えるだろう。むしろ漢字や和語に直したほうが分かりにくい。
ケーススタディ」。このことばがいつどのような場面でよく使われるか、すぐに思いつく人はリサーチやコンサル、経営企画の仕事に関わる人か、新聞やビジネス雑誌をよく読む人か、就活中の学生に違いない。

ケース-スタディー 5 [case study]
一つの社会的単位(個人・家族・集団・町など)を事例として取り上げ、その生活過程を社会的・文化的背景と関連させながら詳細に記述し、そこから一般法則を見いだしていく研究法。事例研究法。ケース-メソッド。

goo 辞書、より
このことばに関していえば、文章を読む人の対象を考慮すれば、カタカナ語を使ったほうが便利な場合が多いかもしれない。


「ローンチ」
一瞬、!?と思った。何のこっちゃ!?
文脈から

launch
━━ vt. 進水させる, 水面におろす; (人を世に)送り出す; (新製品などを)世に出す; 始める; (宇宙船などを)打上げる, 発射する; 放つ, 投げる; (悪口などを)放つ (at, against); 【コンピュータ】(プログラムを)たち上げる, 起動する.
━━ vi. 乗出す, 始める (forth, out; into); 着手する (on, upon).
━━ n. 進水(台); 発射, 打上げ; (新聞や雑誌の)創刊, (本の)刊行.

goo 辞書、より
のことだと分かった。
このことばに関していえば、「launch」ということばを「ローンチ」に直すこと事態に疑問を感じるし、このことばが生きているかどうかを考えたとき、生きていると答える人は、
「ビジネスシーンでは、カタカナ語を使うことによって理解が深まり、より先進的なオピニオンとなる」
という固定概念で凝り固まった人間に違いない。
(ビジネストレンドに関する記事内容には、自分の思考範囲を超えた考え方や、社会情勢を的確に読み取った分析にやいつも大変興味をひかれる。)


最後にもう一度、「坂の上の雲」からの抜粋を。

「たとえば軍艦というものはいちど遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがらがいっぱいくっついて船足がうんとおちる。人間もおなじで、経験は必要じゃが、経験によってふえる知恵とおなじ分量だけのかきがらが頭につく。知恵だけとってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なことじゃが、老人になればなるほどこれができぬ」

古今集ほど古くなくても、すぐふるくなる。もう海軍とはこう、艦隊とはこう、作戦はこう、という固定概念(かきがら)がついてくる。おそろしいのは固定概念そのものではなく、固定概念がついていることも知らず平気で司令室や艦長室のやわらかいイスにどっかとすわりこんでいることじゃ」